愛を教えて
だが、その直後、太一郎の目に凶悪な光が浮かんだ。

伸びてきた手が万里子の手首を掴み、そのまま、ベッドに押し倒される。

布団は何日も干しておらず、部屋は掃除もしていない。そのせいか、それだけの動きで大気中に埃が舞った。

太一郎は万里子の腕を掴んだまま、押さえ込んだ。
そして、顔を近づけ悪態を吐く。


「甘いぜ。馬鹿じゃねえの? そんな約束守るかよ。誰も……卓巳も信じてねえよ」


状況はこの間と変わらない。

なのに、万里子には今の太一郎が怖いとは思えなかった。

今の彼は人間に怯えて牙を剥く獣のようだ。万里子は太一郎から目を逸らさず、凛とした声で言い放った。


「私は信じています。だって、『俺も愛してやる』って言ったわ。愛するって身体だけじゃないもの。それも重要だけど、一番じゃない。……あなたはずるいわ。愛して欲しいなら、自分から愛するべきよ!」

「俺は……別に、愛なんか」


太一郎はタジタジだった。ろくに言い返すこともできず、口ごもるだけだ。


「嘘! 今、嘘をついて逃げたら、一生逃げたままよ。一生ひとりで生きていくつもりなの? 答えて、太一郎さん!」


太一郎は万里子から手を放した。

そのまま力が抜けたようにベッドの横にへたり込む。髪を掻き毟り、顔を抱え、言葉もなくうなだれている。


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