愛を教えて
万里子は身体を起こし、そんな太一郎を泣きたい気持ちで見つめていた。


太一郎の姿は、四年前の犯人たちに重なる。


悪夢は目を閉じても消えない。

うなされ、泣きながら目覚める日々が万里子の脳裏に甦った。


(一生逃げるのは嫌! 私はもう逃げたくない!)



「おとなしいだけのお嬢さんかと思ったら、おっかねー女だな。人を犬呼ばわりするだけのことはあるよ」


太一郎は笑いながら、そんな言葉を口にした。そのまま、腹を押さえて笑い続ける。だが、その態度にはどこか空虚さが漂った。


万里子は立ち上がり、大きく開いた窓の側まで歩いて行く。

心ではわかっていても、身体が自然に過去から逃げようとする。


「あの……ごめんなさい。たとえが悪かったと反省しています」


万里子はカーテンを握り締め、太一郎の目を見て真剣に答えた。


だが、太一郎の視線は空を泳ぐ。微妙に視線を逸らせたまま、立てた膝の前で組む指は万里子以上に震えていた。


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