愛を教えて
「あのさ、俺はもう無理だよ。卓巳とは違うんだ。奴には、どんなハンデでも跳ね返す才能がある。でも、俺は能無しの馬鹿だから」


ポツリポツリと話し始めたのは、すべてを諦めた、希望の欠片もない台詞。


「それに、マジで何人かの女を……。そいつらにしたら、俺なんか死ねばいいって思ってるよ。だから、俺のことは放っておいてくれよ。このまま勝手に、堕ちるとこまで堕ちるからさ」


(太一郎さんが……あのふたりの男が死ねば、私は救われるのかしら?)



万里子の中に『殺したい』『殺せばよかった』という思いが浮かんだことはない。 

忍は『わたくしが刺し違えてでも』と言ったことがある。だが、忍が無事でよかったと、万里子は心から思っている。

『死ねばよかった』万里子が思ったのはそれだけだ。

だが、死んでいれば卓巳とは出会えなかった。

今を、未来をどんなに変えても、過去は変わらない。決して消えずに存在するのだ。

万里子は時々考えることがある。四年前の自分は本当に正しかったのだろうか、と。

父親に知られることを恐れ、自らを庇い、なかったことのように振る舞い……結果、我が子を失った。

それだけでなく、他の誰かにも同じ思いをさせているのではないか。


無論、そこまで万里子が責任を感じることはない。そんなことは充分に承知している。だが、考えて感じる訳ではなく、自然に湧き上がって来るのが感情だ。

理屈ではなく、湧き立つ思いが、万里子の口から溢れ出た。


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