愛を教えて
「殺しても……元には戻らないのよ」


万里子の唐突な言葉に、太一郎は目を見開いた。


「太一郎さん。相手を殺して、何もなかったことにできるなら……でも、ダメなの。できない。そんなことじゃ、胸の痛みは消えないの!」

「お前……何、言ってんだよ」

「私……高校生のときに……ふ、ふたり組の男に。だからもう、綺麗な身体じゃないの。卓巳さんが、初めての人じゃないのよ。――死にたいってずっと思ってた。お父様さえ悲しまなければ、こんな体、この世から消してしまいたいって」


万里子の告白を太一郎は身じろぎもせずに聞いていた。

そして、喘ぐようにどうにか声を押し出す。


「じゃ、な……んで、俺を庇った? その連中に死んで欲しいだろ? 誰かが殺してくれたら手を叩いて喜ぶだろうが!? 俺が死んだら、みんな救われて大喜びだ」

「救われないわ! たとえあのふたりが死んでも、過去は変わらない。私は少しも救われない。彼らが人を愛する心や殴られた痛みを知って、自分の犯した罪の大きさを理解して、同じように苦しんで欲しい。本当に申し訳なかった、許して欲しいと、手をついて謝ってくれたなら……」


万里子は一旦目を閉じ、ゆっくりと開いた。

その瞳の奥には深い悲しみの色を宿している。だが、涙はない。そして、祈るように手を胸の前で組み、澄んだまなざしで、太一郎の目を見て言った。


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