愛を教えて
これまで、卓巳が定時で仕事を終えて戻ったことなど一度もない。


「卓巳さんに何かあったのかしら？　お身体の調子が悪いとか……」

「いえ、そういうことではなく。とにかく、早くお部屋に」


浮島は、急いで万里子を卓巳の待つ自室に連れて行こうとする。

だが、それを遮る人間が現れた。


「万里子さん。お帰りをお待ちしておりましたわ」

「尚子叔母様、あのいったい何があったんでしょうか？」


万里子は当然尚子にも事情を聞こうとするが、浮島がそれを止めた。


「奥様、まずは旦那様とお話を。お急ぎくださ」

「浮島！　あたくしが話をしているのよ。お前は引っ込んでなさい！」


浮島の声にヒステリックな尚子の声が重なる。

予想外の出来事に、万里子は足元から這い上がる冷たいものを感じていた。


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