愛を教えて
投げやりな太一郎の言葉に、千代子の声は明らかに怒っていた。


「太一郎様! それをお聞きになりたいと、大奥様はおっしゃっておられます!」

「好きに思ってたらいいぜ。卓巳にぶん殴られた腹いせに、あの女をやったとかさ。今度は間違いなく、卓巳に殺されるだろうなぁ」


薄笑いを浮かべ、太一郎はわざと汚い言葉を使う。

すると、千代子は信じられないひと言を口にした。


「さあ、それはどうでございましょう? 卓巳様は万里子様を疑われ、軽率な行動をお叱りになったそうです。そして、万里子様は出て行かれました。このままですと、万里子様は夫の従弟である太一郎様と不貞を働いた、ということになってしまいますが……」


(万里子が出て行った、だと!?)


太一郎には衝撃的な言葉だった。


尚子の万里子に対する所業を聞いただけで、母の元に乗り込んだ。そのあとの騒動は何も知らない。

大喧嘩の末に卓巳が家を飛び出し、その間に、万里子は婚約指輪を皐月に返して家を出てしまったこと。更には、それを知った卓巳が仕事を投げ出し、部屋に閉じこもってしまったことも。


太一郎の足は皐月の部屋に向かう。

それは彼が選んだ初めての“逃げ道”以外の道だった。


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