愛を教えて
太一郎が皐月の部屋に通されたのは初めてのことかもしれない。

記憶にないほど幼いころのことは覚えていないが。

卓巳は皐月と同じ目をしている。初めて卓巳に会ったとき、そう思った。

皐月がいつも太一郎を見る冷ややかな視線。お前に生まれてきた意味も価値もない――皐月の目はいつも太一郎を見下していた。


「何か、言いたいことはありますか?」

「どうせ俺ならやるだろう、って思ってんだろ? 別にいいよ。でも……あの女は違うだろ? なんで卓巳は追い出したりしたんだ? あんたもなんで止めないんだよ!」

「口が過ぎますよ、太一郎様」

「うるせえっ」


横から千代子が太一郎に向かって注意する。

皐月は発作を起こしたばかりなのだ。無理は禁物である。それでも、太一郎の帰宅を知り、どうしても話がしたいと言い張った。



太一郎にとって皐月は敵だ。


『皐月様のせいで、あなたの本当のおばあ様は亡くなってしまわれたのよ』


尚子はことあるごとに、息子に言い聞かせた。


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