愛を教えて
太一郎はこのとき、万里子を疑った卓巳を責める資格はない、と思った。

万里子の信頼を損ねたと、太一郎自身も彼女の真心を疑ったからだ。

呆然とする太一郎を横目に皐月は続けた。


「太一郎さん、あなたが万里子さんに惹かれても無理はないでしょう。そして、万里子さんが自然にあなたに心を動かすのなら、それは仕方のないことだと思います。ただ、これまでのように、腕力に訴えるような真似だけはやめてください。どうか、それだけは」



この瞬間まで、皐月は太一郎の中にある誠意を信じていなかった。

万里子の言葉は正しい。だが、所詮、若い娘の綺麗事に過ぎない――。



「……ありがとうって言ってくれた……」


太一郎はうつむき、ポツリと呟いた。


「俺が追い詰めて、殺そうとしたようなもんなのに。自殺を止めてくれてありがとう、って……初めて言われた。感謝されることが、こんなに嬉しいって初めて知ったんだ。謝ってよかったと思った。二度としない、本当に心からそう思った」


この邸で一番大きな体を震わせ、太一郎は泣いていた。

その姿は、差し出した愛情を破り捨てられた五歳の少年に重なり、皐月の心を震わせる。


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