愛を教えて
万里子には卓巳が何を言おうとしているのかわからない。

いや、言葉の意味はわかる。だが、なぜここで口にするのか。ここには邸の人間が集まってきているのに。

卓巳の逆鱗を恐れてか、尚子の顔は見えない。だが、オープン階段の陰からこちらを窺っているのが丸見えだ。

それだけじゃない。宗もこの場にいるのだ。


卓巳はじっと万里子を見つめた。


彼の瞳には何も浮かんではおらず――その瞬間、卓巳が何を言おうとしているかわかった。


「卓巳さん、やめて!」


万里子にとって、それは最も望まない形だった。



しかし、卓巳には届かない。

卓巳は、過去が明るみに出て傷ついた万里子の心を癒やすため、自らの心を差し出してしまう。


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