愛を教えて
「最後までしなければ、何もなかったことになるの? 妻は生涯私だけだっておっしゃったくせに。卓巳さんが望むならこの家を出たっていい。社長じゃなくても構いません。私に、ついてこいって言ってください!」


指輪を置いて出て行ったことを、卓巳になじられるのは覚悟の上だった。

何度でも謝って怒りを収めてもらおう。妻として付き添えるように、許してもらおう。そう思って駆けつけた。

だが“夫婦ではなかった”“何もなかった”と言われるくらいなら、夫を裏切った妻として、離婚を言い渡されるほうが百倍マシだ。



邸中が静まり返り、全員が卓巳の返答を待っていた。


しかし、時計の秒針が一周して……二周目を過ぎても、卓巳は何も言わない。



「これが……お返事なんですね。夫だと思うから、身を任せていたのに。一度も妻だと思ってくださらなかったなんて……」


沈黙に耐え切れず、万里子は自ら答えを出した。

そして、流れる涙を拭おうともせず、万里子は卓巳の前から立ち去った。


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