愛を教えて
しかし、今の卓巳の懸念は違った。

ライカーは三十代半ば、既婚に関わらず、ロンドン社交界では有名な女好きである。

だが、太一郎のような子供じみた違法行為など絶対に行わない。相手に応じた、実に巧妙なやり方でお目当ての女性を手に入れていく。

金を欲しがる女性には有り余る金を。

セックスの悦びを求める女性にはベッドの上での満足を。

愛を欲しがる女性には惜しげもなく愛情を与える。その熱烈な愛情表現に負け、どんな頑なな女性もやがて彼を愛するようになるという。


卓巳にはとても真似できない。

そもそも、多くの女性を得ることになんの喜びがあるのだろう? ましてや、妻がいながら、他の女性に愛を語るという神経が理解できなかった。

相手はひとりだけでいい。
たったひとり、彼女だけを愛し抜く心と身体があったなら。

そのたったひとりの女性、万里子の傍らに立ち、ライカーはにこやかに談笑している。

卓巳は銀髪の男を見据えると、呼吸を整え、ゆっくりと近づいた。


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