愛を教えて
『あまりよい話にはならなかったようだね』


階段下のスペースにはベンチが置かれている。喫煙コーナーにもなっており、そこから姿を現したのはライカーだった。


『いいえ、それは違います。あまりではなく、全く話になりませんでした』


卓巳は呼吸を整え姿勢を正して答えた。


ライカーの声は張り詰め、まるで宣戦布告のような緊張感を漂わせている。どんな隙を突いて攻めてくるかわからない。卓巳は気を抜かず、迎撃態勢に入る。


『妻がお手を煩わせました。彼女を連れて、すぐに失礼いたします』

『ああ、そうか。それは仕方がないだろう……今夜は』


ライカーの言葉は思わせぶりだ。


『次のご招待に応じるかどうかは私しだいです。そして、二度と応じるつもりはありません。では、失礼』


踵を返した卓巳の背後にライカーは直球を投げつけた。


『マリコは素晴らしい女性だ――私がもらう』

『無駄だ。彼女は私の妻だ』

『関係ないな。婚姻は契約のひとつに過ぎない。愛の前には無意味だ』

『それは愛のない結婚をした場合だ、あなたのように。愛し合っている僕らに割り込む余地などない』


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