愛を教えて
「すまない……重かっただろう?」


脱力感から、つい万里子に身体を預けてしまっていた。

卓巳は慌てて起き上がり、あるひとつの事実に目を奪われる。彼は、万里子のドレスを引き裂くに留まらず、汚してしまったことに気づく。それを見た瞬間、男としての優越感がこみ上げて来た。


「卓巳さん、あまり見ないでください」


卓巳の視線に万里子は脚を重ね合わせ、露出した部分を隠そうとする。だが、今や真紅のはぎれと化したドレスなど、なんの役にも立たない。

卓巳は自分のコートを拾い上げ万里子を包み込んだ。

緩く結い上げたシニョンは、卓巳のせいで解けてしまった。万里子の額にかかった数本の髪を卓巳は払い除け、万里子の瞳を覗き込んだ。


「痛くなかったかい? 僕は君を傷つけなかっただろうか?」


万里子の頬は薄い桜色に上気していた。華奢な肩も小さく上下している。


「いいえ。いいえ、卓巳さん……あの、私たち最後まで?」


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