愛を教えて
次に万里子が気づいたとき、カーテンの隙間から薄い光が見えた。

そして、万里子の耳には卓巳の話し声が聞こえる。どうやら電話中らしい。


「おはよう、起こして悪かったね。僕はもう出るから」

「あ、おはようございます。ごめんなさい、今何時ですか?」


卓巳はすでにスーツ姿だった。シャワーも浴びたらしい。眠り込んでいた自分が恥ずかしく、万里子も慌てて起きようとした。


「まだ六時だ。君はもう少し眠ったほうがいい。――万里子、今朝の新聞に、君にとっていやな記事が出る。でも、真実は君が一番よく知っている。ここにマスコミが押しかけるようなことは絶対にさせないから……僕を信じて欲しい」


それがジューディスの件だと、万里子は薄々気がついた。

だが万里子が気になったのはそんなことではない。

卓巳はベッドに腰かけ、人差し指を伸ばすと万里子の頬を撫でた。その指先で数本の髪をすくうと先端に口づける。

わずか一夜、卓巳の見事な変わりように万里子は困惑していた。


「は……い。わかりました。あ、シッティングルームを片づけないと。テーブルの上も」


ふたりの愛し合った跡が残ったままでは、様々なことを客室係に知られてしまう。いくら新婚でも、筒抜けになるのは恥ずかしい。


「心配はいらないよ。奴の贈りものは、花の一本までゴミ箱行きだ」


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