愛を教えて
ソフィ・カーライル、彼女はナニーの資格を持ち、このホテルの託児施設でベビーシッターをしている。背はかなり高く、卓巳より数センチ低いくらいだろうか。

量の多い赤茶色の髪をいつも後ろで纏めている。子供の面倒を見るため、化粧はしておらず、アクセサリーの類も一切身につけていなかった。ホテルの制服を崩さずに着込み、まるで修道女のような印象を受ける。

万里子より少し年上だが、慎ましやかな雰囲気がよく似ていた。


ソフィには両親がおらず、教会で育ったという。十六のころからプラザ・オン・ザ・リバーで働いていた。最初は雑用、下働きとして。

卓巳がこのホテルを購入した二年前、彼は従業員支援制度を設けた。そのおかげで彼女はナニースクールに通い、資格を取得できたのだ。


社長とは強欲な支配者である、このホテルの従業員はみんな、そう思っていたようだ。おそらく、前のオーナーがそういう人物だったのだろう。ソフィは日本から来た新しい社長の決めた待遇に驚き、そして感謝の思いを伝えたくて日本語を覚えた。卓巳はそう聞いている。

今の万里子に英語は耳に入らない。日本語が話せて常に付き添える人間を、と考えたとき、卓巳の頭にソフィが思い浮かんだ。


間もなくジェイクもやって来る。午後はどうしても出かけなければならない。今夜の帰国は不可能だ。そのことを宗に連絡しなければならないのだが、どうにも気が重い。

卓巳がため息と共にシャワーのコックを閉めたとき、『オーナー! 奥様が』ドアの外からソフィの声が聞こえた。


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