愛を教えて
今度のことで卓巳は学んだ。

ジェームズ・サエキにはまんまと騙された。それがライカーの指示か、ジェームズの独断か、そんなことは最早どうでもいい。

ただ、運命は悪意の塊だ。卑劣な罠を仕かけ、卓巳から万里子を奪おうと企む。ならば闘ってやる。運命が何度、万里子の指から結婚指輪を奪い取っても、その度に全力で取り戻してみせる。


卓巳の中にはもう、セックスを嫌悪し、愛の存在を否定して逃げ回っていた十五歳の少年はいない。

母親の言動に振り回され、心を凍らせた少年を、卓巳は“過去”のアルバムに整理した。楽しい思い出として眺めることはできないが、すべては“過去”だった。

卓巳は万里子の左手をしっかりと掴み、口元に引き寄せる。


「二度と外れないよう、呪文をかけよう」

「もし……外れたら?」


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