愛を教えて
その瞬間、万里子は卓巳を突き飛ばした。

そして、怒りに満ちた表情で卓巳を見ている。なぜ、こんな目で睨まれなければならないのか、卓巳には訳がわからない。


「諦めるなんて、どうしてそんな簡単に言えるの? よかったなんて……信じられない」

「簡単に言ってるんじゃない! こうなってよかったと言ってる訳でもない。ただ、どこかに慰めを見つけないとやり切れないだろう」



万里子の辛さは充分にわかっているつもりだった。

だからこそ、卓巳は冷静に考えて、万里子の心の負担を軽くするような言葉を選んだ。卓巳まで深刻になり頭を抱えては、万里子を余計に悲しませる、と。

その思いは伝わらず、万里子はヒステリックに叫び始めた。


「どうして? どうして、そんな危険な薬を投与したの? 少しでも可能性があるなら、やめて欲しかった。本当は……妊娠なんてできっこないって思っていたんでしょう? だから」

「違う! ちゃんとドクターには言ったし、検査もしたんだ! あのときは、パニックを起こす君を落ちつかせるために必要だったんだ」

「私なんか、どうなってもよかったのに。私はまた……自分が助かるために、子供を殺したの?」


卓巳は万里子の涙を止めることができず、悔しさに唇を噛み締めた。


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