愛を教えて
病院から戻るなり、万里子は奥の寝室に籠城してしまう。


「万里子、いい加減出て来るんだ。ちゃんと食事を取りなさい!」

「放っておいてください!」


卓巳はドアの前に佇むことしかできない。時間を空けては、万里子に声をかけるだけだ。


(なんでこうなるんだ!)


万里子を思う言葉のすべてが彼女を怒らせ、卓巳自身も泣きたい気分だ。



『まあ、ではハネムーンベビーですか? おめでとうございます!』


帰宅後、話を聞いた雪音からお祝いを言われた。

だが、それにすら、なんと答えたらよいのか見当もつかない。

しかも事情を掻い摘んで話したとき、『それは……旦那様が悪いと思います』と雪音は顔を顰めた。



努力は何ひとつ報われず、万里子すら卓巳を責める。

こんなはずではなかった。

こんな……悪意に満ちた奇跡にもほどがある。


(万里子を思って言っただけだ。何もかも、万里子を救いたかっただけなのに……)


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