愛を教えて
「もし万里子に何かあったら、私はどうすればいいんだ! もちろん子供は欲しいさ。それは万里子の願いだし、どんなことをしても叶えてやりたい。だが、万里子はたったひとりなんだぞ!」


子供だけでなく、万里子に万一のことがあれば、卓巳は二度と立ち直れない。


だが、冷ややかな雪音の視線に卓巳はいたたまれなくなり、逃げるように洗面所に飛び込んだ。

冷たい水で顔を洗う。それも、頭から水を被る勢いだ。

卓巳は奥のドアにチラリと視線を向けた。寝室への入り口は、ここにもうひとつある。ひょっとしたら、鍵をかけていないかもしれない。

そのとき、ふと、鏡に映った自分の顔を見た。それはとても初めての子供を授かって、喜んでいる父親の顔ではない。


卓巳は悔しさと悲しさがない交ぜになり、次の瞬間、拳で洗面台の鏡を叩き割っていた。



「卓巳さん!」


寝室側のドアが開き、万里子が飛び込んで来た。数時間ぶりに目にする妻の姿に卓巳はホッとする。


少し時間を空けて、別のドアから宗と雪音も姿を見せた。宗は驚きながらも、雪音に救急箱を取りに行くよう指示する。


「社長、奥様……危ないので鏡から離れてください。手当ては寝室のほうでお願いします」


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