愛を教えて
宗に言われ鏡を見ると、殴った場所が陥没し、波紋のようにひび割れが広がっている。外れて落ちたら大怪我をするだろう。

それを考えたとき、卓巳はとっさに万里子の腕を掴み、洗面台から引き離した。


「僕はどうなってもいい。だが君は、大事な身体なんだ」


それはごく自然に卓巳の口から零れる。

ところがその言葉を聞いた瞬間、万里子は卓巳に抱きついた。


「ま……りこ?」

「そんなふうに、言ってもらえて……嬉しい」


今の万里子は、嬉しくても悲しくても、とにかく涙が溢れ出す精神状態らしい。


だが、卓巳にはそれが辛くてならない。

妻を泣かせたままでいるなんて、夫である自分の力が足りないせいだ。卓巳には万里子の苦悩を解決してやる義務がある。

彼は自分の悲しみを二の次にして、まず万里子を救おうと必死だった。

まさかそれが、万里子との距離を広げているとは思いもしない。


万里子は涙を拭うと、手近にあるタオルを掴み、卓巳の右手を優しく包み込む。


「もう、なんてことを……」


万里子は卓巳の怪我を気遣いながら、寝室まで引っ張って行く。


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