女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
私の心は昨日の神社からずっと、凍ったままだ。
狂ったように笑う斎に、あの悪魔に最後まで女としての屈辱を与えられたけど、それよりも深く傷ついた、桑谷さんの疑惑。
私と出会う前から斎と飲んでいることが判った。
ならば、もしかしてあの階段も計画の内だったのだろうか。
斎が私を落として桑谷さんが「偶然」私を助ける。
そして、私と仲良くなる?
斎と桑谷さんは共犯で、私を罠にかけたのだろうか。だけどそれだと斎が返してきたお金を私が持っているのはおかしい。目的はお金じゃないのかな。一体何が目的で桑谷さんが私に近づいたのかがハッキリとしない。
正体がわからない。どうしてあそこにいたんだろう。何が目的だったんだろう。
キラキラが消えてしまった手の平を、電車に乗っている間、じっと見ていた。
斎によってえぐられた傷口を埋めてくれた男性に、更に切りつけられるとは。
私はため息をはいて電車の座席に寄りかかる。
夏場の明るい電車の中は空いていて、空調がきき快適だった。乗客の中で暗い顔をしているのは、きっと私だけだろう。
5月以来泣いていない私の瞳は、それでも相変わらず乾いたまま。
復讐は、一応の終わりをみせたのに。悪魔の逃走という形で。
泣けない―――――――・・・どうして、私は。
電車から降りて見る夏の空は、眩しすぎて直視できない。犯罪者みたいに背中を丸めて、百貨店への連絡通路を歩いていった。