女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
百貨店の通用口を入ったところにある名札が裏返っているのを見て、桑谷さんが今日は早番で出勤なのだと知る。
・・・・来てるんだ、今日。
「・・・面倒臭いなあ・・・」
つい声になって出た。
あーあ。まあでもあちらが休みだと、待ち伏せくらいされそうだし、一緒か・・・。だけどこういう時、売り場が近いと見えてしまうから逃げようがない。仕事中ずっと監視されるようなのは勘弁だった。
着替えてトイレで化粧と制服をチェックする。
睡眠不足で多少だるそうではあるけど、いつもと同じ顔で接客は出来るだろう。
瞼が腫れてるので、今日はアイシャドーはブルーを少しだけ塗った。きりっとした印象の女が鏡の中にいた。
・・・・負けちゃダメだ。自分に呟く。悪魔が居なくなってなお、今度は正体不明の男とまだ戦いが続くとは・・・。
よし、と気合を入れて、デパ地下に降りて行った。
鮮魚売り場は見ないように気をつけて自分の売り場へ直行した。
斜め前の『ガリフ』ではいつもと同じ早番担当のバイトの女の子が仕事をしている。パッと見には普段通りだ。
「おはようございます」
福田店長に挨拶をしてカウンターに入る。
すると、挨拶を返してくれたあと、綺麗な眉をひそめて福田店長が言った。
「小川さん、守口さんが大変だって、聞いた?」
・・・・あ、やっぱり、話はいってるんだ。