女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 スタスタと歩く彼に手を引かれてついていく。生暖かい風を感じて、真っ暗な空を見上げたりしていた。

 ・・・都会では、星が見えない。ずっと前から当たり前に思っていたそれを、何故か今晩は残念に思えたのだった。

 少し、緊張していたのだと思う。


 シンプルなビジネスホテルの部屋に入ってからは、考えるのをやめた。

 別に悩む必要などないのだ。

 彼はよく知らない気を遣う必要のない相手だし、好きで付き合っている、大切にしたい彼氏ではない。これで付き合いが壊れてしまうのが困る友達でもないし、職場でも直接は関係のない人だ。

 しかも、最初からこの行為を楽しめないかもしれないってことまで、私は告知しているわけで。

『俺を試してみない?』といった、彼の言葉をそのまま受け入れることにした。

 化粧は落とさずにシャワーを浴びてから、白いシーツに横たわる。自分の部屋にいないことだけが、不思議に感じられた。

 ・・・あら、私、ホテルになんているんだわ、って。


 彼の男っぽい外見から想像していたのは、多少強引なセックスだったけど、実際はそんなことはなかった。

 初めはほとんどリードらしいリードもなく、私の思うように動いていいと笑った。

「リラックスして。なんなら、マッサージだと思えばいい」

 男性の体を自分の好みのままに触ったことなどなかった。だけど私は、頷いたのだ。考えないって決めたのだから。


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