蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
プロローグ
落ちていく。

落ちていく。

どこまでも落ちて、やがて見えてくる。

それは過去の情景。



最初の最期。



忘れる事のできない私の頭は、今でも鮮明に覚えている。

明るい満月の光。
吸い込まれそうな深い、深い青の中に浮かぶ満天の星。
白と金で彩られた悪趣味な城をバックに、最期の瞬間を待つ。

前に立ちはだかった人の手には、血の滴る剣。
共にこの城へと腐った王族を滅ぼそうと立ち上がった仲間。
相棒と呼べるほどの仲だった人。
作戦を立てるのはいつも私の役目だった。
だから、今回も私が作戦を立てた。
王族を…私を殺す為の作戦を…。
私一人が先行して城へ。
そして、事は成った。


たった今私は、実の父である王とその侍従、五人の義母である王妃達を殺した。
義理の上の4人の兄姉達が自分達で命を絶つのを見届けた。
何も知らない下の幼い二人の弟妹は、信頼のおける騎士と数名の官に託した。
偽の遺体も用意した。
上手く生き延びられるはずだ。

作戦ではそろそろ城に火がかけられる頃、私はもう何ヵ月も帰っていなかった自身の部屋で、何年ぶりかの皇女の姿になった。
鏡の前に立つのは、数分前まで血に濡れ、剣を振り回していた反乱軍の副将ではなく、紛れも無いこの国の皇女だった。
これならば気付かない。
最後に私を打つ反乱軍のリーダー。
私の相棒。
最期を迎えるのに相応しい相手。


そして私は彼の前に立った。


王族は誰も生かしておかぬと息巻いている大勢の民達を背後に、彼は作戦通りの時間にその場に立っていた。

『王族を根絶やしにしたいのならば、私を殺しなさい』
『ッ高慢な皇女よッ。
民の怒りを思い知るが良いッ。
安穏と富を貪ってきたキサマら王族にッ、安らぎなどないと思えッ』

恨みは深い。
だが、これで民達は解放されるのだ。
悔いはない。
彼らは相手が私である事にも気づいてはいない。
それで良い。

勢いよく剣を立て向かってくる彼はその勢いを殺す事なく、躊躇なく私にその切っ先を深く突き刺した。

逆流する血を口から溢れさせ、ゆっくりと崩れ折れる。
終わる…。
急激に血の気が引いていく。
意識が霞む。
だが、私は微笑んでいた。
これで民達の願いは叶えられたのだから…。

沈みゆく意識の中で最期に見たのは、なぜか泣きながら叫ぶ彼の姿と、一つの影その上に輝いた美しい月と星だった…。

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