蒼の王国〜金の姫の腕輪〜

城への道程

‡〜騎士逹の想い〜‡

「術者を探せッ」

まだ夜の帳が降りきる前、国王マリスからの突然の召集に穏やかならざる予感を感じながらも、統率のとれた速やかな動きで集まった軍の騎士逹に下された命は、先程展開された大規模な術式を発動させた術者を探せとの事だった。
常に、無表情が標準装備の国王の顔が強ばっている事に誰もが気づいた。
これは国の一大事。
先程の術が何であるのかは定かではないが、何が起こっても冷静沈着に対応する感情もないのではないかと思われていた冷酷な国王に、その術者は一撃を与えたのだと言う事実。
今まで誰一人として成し得なかった事だ。
どれ程反対や抵抗をされようとも微動だにする事なく容赦なく切り捨ててきた不滅の王は、今確かに揺らいでいた。

マリス王が玉座についてかなりの年月が過ぎた。
しかし、王を支えるべき宰相位は空位のまま。
完全なる独裁。
人族嫌いの孤独な王。
今でも国の名前が”旧カルナ国”と呼ばれるのは、一つにはカルナ国が滅んでから、誰一人として確実に王と呼べる者がいなかったからだと言える。
そして、なぜか王となったマリスも名を改めようとはしなかった。

”王は国が消滅するのを待っている”

それは、この国に住まう誰もが持つ王への見解だった。
そして、それが決して間違いではない事を王に仕える者逹は確信していた。
幾度となく民は反乱を起こす。
だが、自分達軍の者は、マルス王の指示により、それを苦もなく抑える事ができた。
戦略は完璧で、もはや誰一人声を上げる者はいなくなった。
いや…声を上げる事さえできない程疲弊してしまったと言った方が正しいかもしれない。
そんな状勢の中で今、王を…国を揺るがせた者がいる。
国に命を捧げた軍の騎士逹は、これは好機だと誰もが思った。
勿論、”騎士道”の精神を持ち合わせた者逹しかいないのだから、この機に王を弑するなんて事を考えている者はいない。
更に、軍の半分程がエルフの血が混ざっている者と言う事もあり、決して人族贔屓ではない。
ただ、今の現状を変えたいとは思っていた。
マリスを自分達の真の王とする為に…。
今このとき好機と思ったのはただ一つ。

『王を変えられる者が現れたかもしれない』

と言う事だ。
こうして、王の思惑とは関係なく、彼らはこの奇跡を起こした術者を探すと言う事に全身全霊を賭すと決意した。


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