蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜心の距離〜‡

「リュスナ…?
俺も駄目か…?」
「…っ…もう少し待ってください…ちゃんと治まりますから…」

溢れ出した涙を必死で堪えるリュスナを初めて見た。
こいつも泣くんだと初めて知った。
その泣き顔を見て気付いたのは、本当に心から笑った笑顔を、見たこともなかったのではないかという事だった。
はにかむような微笑みしか出てこないのは、そう言う事かと、今更思い至った。

所詮は師匠と弟子の距離しか築けていなかったのではないかと思ったのは、棺の中で眠るリュスナを見た時だった。

眠った姿など見たことがなかった。
眠ると言う事は、安らぐ事だ。
その安らぐ時を、俺には任せてくれなかったのかと思った時、悲しいと思うより先に悔しいと思った。
師匠である自分には、弱い所もさらけ出して欲しいし、安心して背中を任せて欲しいと思ったからだ。

だから、ある頃から安定した様子を見せるようになったリュスナを見て、素直に喜んでやる事ができなかった。
俺には築けないでいる関係を築いたやつがいるんじゃないかと思ったからだ。
ナーリスが言ったのだ。

『リュスナったら、イイ人でも見つけたのかしらね◎
最近、人間らしくなったと言うか…女の子らしくなったわ◎』

まずいと思った。
どれだけ早く巡り合っていたとしても、どれたけ長い時を共に過ごしたとしても、”運命の出逢い”は存在する。
”時”など意味を成さなくなる。
どいつがそうだろうと探りを入れた時がある。
だが、全く分からなかった。
城にいるのは、頭の悪いガキか、頭の堅いバカ。
リュスナが到底気に入るはずがない。
イライラと、逆立った気だけが支配していく。
だからだ。
あの日久し振りに旅に出ようと思った。
その素振りに気付いたリュスナが見送りに来てくれたのを知っていた。
高い城の窓からだった。
城に背を向けた俺をじっと見つめてくれているのを感じていた。
浅ましくも、その時リュスナを独占できていることに歓びを感じていたのだ。
門が完全にその視線を遮るまでの間、あいつの心は俺に向けられていた事に、どうしようもなく沸き立つものを胸一杯にして旅立った。


けれど、帰った俺を迎えたのは、リュスナの安らかな寝顔だった。
美しく着飾られ、異世界で眠るリュスナは、何一つ語ることがなかった。


そして思った。
あの時背に感じた視線に何か他の想いはなかったのかと…。

だから今、リュスナがひどく遠く感じる…。
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