蒼の王国〜金の姫の腕輪〜

戦うもの

‡〜交渉〜‡

近付いてくる気配を感じる。
瘴穴が開いたと言っても、まだ小さい。
小さな魔獣達が出てくる程でしかない。
けれど、悠長なことをしてはいられない。
完全に瘴穴が開いてしまえば、あいつが出てくる。

「ここが良いわ◎
それじゃぁ、デュカ、手はず通りよろしくね☆」
《『仕方あるまい…』》

広間の中心に立ち、息を整える。
目を閉じ、意識を集中する。
足下が金に光り、身体が少し浮き上がる。
解放されていく力の奔流に髪がフワフワとなびく。

〔ラクウ・サリカント〕

金に光る魔法円が展開される。
精密に、慎重に…。
この次元から退避させられたものを呼び戻す。

「ッッくっ…」

跳ね返されるような抵抗感。
目を開ければ、薄い壁一枚の所に、三つの魄動を感じる。
すぐそこに見える。

黒く光る石。
赤く光る石。
青く光る石。

しかし、次元の隙間をすり合わせ、こちら側へ引っ張ろうとすればするほど、瘴気を嫌う様に遠退いていく。
もどかしい。
別次元に触れる抵抗感が拭えない。

早くしなくては…っ。

瘴穴が完全に開いてしまう。
あいつが出てくる前に…っ。

『苦労しているようね』
「っ…?」

突然響いた声に目を見開く。
それは懐かしい声だった。
焦っていた心が突然落ち着いていく。

「っふっ…見えてるなら、手伝ってくれない?」
『ふふっ、ちょっと覗いてみただけだよ。
実は、あんまり干渉するなと怒られたばかりなんだ』
「いいじゃない◎
手伝って☆」
『仕方ないな。
まぁ、暇潰しにはなるか』
「それでこそよ☆
大好きよ、レン」
『ふふっ、言い訳は一緒に考えてもらうからな』

ぐっと身体が軽くなる。
瘴気を遮断し、別次元に干渉する時に感じる独特の抵抗感が消える。

『土地神との交渉ができた。
あとは、そいつらと直接交渉すればいい』
「わかったわ◎
あっそれと、リュスナの事ありがとう…」
『気付いてたのか?
まぁ、気にするな。
あれも暇潰しの内だよ。
時間切れだ。
またな…』
「うふっ、まったく…女にしとくのは勿体ないわ☆」

気を引き締め、再度石に向き合う。

「役目を果たして。
求める者達の声を聞いて」

《我を呼ぶのは誰だ》
《我らを求めるのは何者か》
《我らを目覚めさせるのは誰か》

「わたしはナーリス・セス・ディクス。
『暁の魔女』と呼ばれる者」

《何ゆえ呼ぶか》
《何ゆえ求めるか》
《何ゆえ眠りを妨げるか》

「在るべき場所。
約束の場所へ戻って。
それが貴方達の存在意義であり、役目であるはず。
思い出して」





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