蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜瘴穴〜‡

闇が濃くなっていく。
瘴気は、生暖かくねっとりと絡み付くようだ。

「瘴穴があるのは、この部屋みたいね…」

ナーリス、デュカと共にたどり着いた部屋の前。
先程からパタリと魔物や魔獣が出てこなくなったのが気になる。
頷きあうと、ナーリスは一息に部屋の中へと飛び込んだ。

「なっ…ッ」

後に続いて入れば、そこには大きな黒い闇の塊が浮いていた。

「ナーリスっ…瘴穴ってこんなものでしたかっ?」
「っ…いいえ…う〜ん、もう瘴穴とは呼べない代物になってるわ…。
これは入口よ」
「入口…?」
《『来るぞっ』》

デュカの警告でとっさに部屋の端へと飛び退く。
出てきたのはコウモリの様な翼の生えた”魔族”だった。

「下っ端がぞろぞろと…っ」
「下等な人間共よ。
我らが大公の為、大人しくこの地を献上せよ」
「寝言ほざいてんじゃないわよっ。
おバカさん達。
一応言っとくわよ。
私は”暁の魔女”。
このまま直ちに帰りなさい。
こちらの次元への武力をもった介入は、世界の律に反します。
これに反した場合、問答無用で排除行動に移ります」
「…ナーリスっ…かっこいいですねっ」
「いやん☆
もっと言って〜ぇ◎」
《『…ナーリス、少しは空気を読む事を覚えよ…』》

そんな緊張感のない会話を余所に彼らは空中で翼を広げたまま、何事かを話し合ったかと思えば、突然その手に槍を出現させ、こちらに向けて急降下してきた。

「ナーリスッ」
「ふふっ…。
〔ディル・マズス・グランディカ〕」

ナーリスが手をかざし、艶然と笑みを浮かべながら唱えた術によって、特攻をかけてきた三体の”魔族”は、塵一つ残す事なく、一瞬で跡形もなく消し飛んだ。
何が起きたのか理解できず、動きを止めた残りの”魔族”達は、ナーリスを呆然と見下ろすしかなかった。

「ふふふっ…馬鹿ねぇ…。
言ったはずよ。
私は”暁の魔女”魔女とはすべからく”魔”を宿す者。
世界に不要と判断した者は何であろうと消す。
命ある者に対しても慈悲などない。
神であろうとも容赦しない…。
〔ディル・マズシーグ・グランディス〕」

先程の術を発展させ、威力を倍にまで高めた術が発動した。
それにより、この場にいた”魔族”のことごとくを消滅させた。

「これでバッチリっ☆」
「…こうまでされると…こちらが悪者の様な気が…」
《『一方的過ぎるな…』》

しかし、次に瘴穴から顔を出した物に、ナーリスでさえも凍りついた。



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