蒼の王国〜金の姫の腕輪〜

打ち払う力

‡〜祈りの歌〜‡

闇が膨らみ、その大きさをゆっくりと着実に拡げていく。
それにつれて、強大な何かが近付いてくる気配がする。
そして今、その闇の中から顔を出したのは、赤黒い鱗、長い首、爬虫類に似た鋭い目。

「ッッドラゴン?!」
「っ…炎龍なんて反則だわっ」

その大きな巨体で地面を揺るがし、今完全に闇から抜け出してきた炎龍は、次の瞬間、その口から強烈な声と炎を吐き出した。

《ギグァァッッ》

〔〔グルス・シードっ〕〕

ナーリスと同時に発動させた術は、きれいに重なり、巨大な盾の防御結界が形成される。

「アブナイッッ…ヤバかったわよっ今のっ」
《『毛がチリチリするぞ…』》
「どうするんですっ??これっ?!」

龍に対抗できるような大きな術を室内では使えない。
だが、このままでは消し炭になるのは目に見えている。
今の攻撃で、部屋の壁は黒く炭化してしまった。

「ん?なぜ炭になっただけ?」
「何が?」
「あれだけの炎で、なぜどこにも火が燻っていないのです?」
「あら?」
《『なるほど…』》

先程から、龍はこちらを見ていても、攻撃してこない。
だが、その大きな口の中では、炎が溢れようとしている。

「本調子ではないのでしょうか?」
「っ土地神の力が戻ってる…っ。
っリュスナ、炎龍を押し戻すわ」
「え?
わっ分かりました…ですが…」
「…歌を…土地神に力を…。
っダメよねっ…無茶しないでって言っておいて貴女に頼るなんてっ…」
「いいえ…分かりました。
大丈夫です。
活性化する感じで良いですよね?
浄化の歌ではなく、祈りの歌にします」
「っええっ。
それで十分よっ」

もう分かっている。
自分の命を削って、助けたとしても、誰も喜ばない。
闇に呑まれていた三人の心を見て分かった。
闇に…悲しみの中に落としたのは私の身勝手な行動の結果だ。
もう、間違えたりしない。
再びはない。
だから…。

《…求めるものは彼の風
欲するものは彼の水
汝、清らかな神となれ…

想いは深く深く馴染む
意志は深く深く沈む
汝、強き神となれ…

時を育む夢を見よ
時を愛する世界を見よ
汝、優しき神となれ…》

歌と共に城を全て囲う程の魔法円が四方に展開される。
その大きな円がゆっくりと倒れ、地に重なっていった。
光を発しながら地に染み込むように消えると、脈動するように地が光を発して揺れた。

「今よ、デュカ手伝ってッ」
《『承知した』》

デュカが牽制するように龍へと向かい、ナーリスが何事かを呟くと、風が興こり龍の巨体を闇へと押し戻した。

《ギギャァァァ》



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