蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜闇に去る〜‡

思ったのはあの日の想い。
何もかもを投げ出すように終らせた日。
こちらに戻ってきて、ナーリスやラダ、フェリス、シリス、マリスに出会ってようやく理解した。

私は、何の為にこちらの世界に帰りたかったのか…。
帰らなくてはならなかったのか…。

気付いたのだ。
あの日を私は終わりにしたけれど、多くの人にとって、それは忘れえぬ傷となり残っていた事に…。

忘れられない事の辛さを誰よりもよく分かっているはずなのに…。

だからこそ、私は清算しなくてはならないのだ。
残してしまった傷を癒す為に、過去を償う為に…。

多くの、忘れずに想ってくれていた人達に、再び笑って出会う為に…。
だから…。

〔闇に生まれしものよ。
時の狭間に抱かれしもの…。

「っリュスナ?」

祈りを知らぬ愚者の名を問う。
夢を見ぬ賢者の名を問う…。

「っこの術はッ…」

汝、闇を打ち払う光。
汝、夜を引き裂く閃光…。

「貴様ッッ止めろっ」

我と汝の前に立ちふさがりしものにっ。
その白き刃を打ち立てよッ〕

「ッッぐぁぁぁっ」

幾つもの白い閃光を灯した刃が大公に向かって飛来する。
その刃を受けた大公は、衝撃に押され、瘴穴の方へと追い込まれていく。
光が止むと、瘴穴の前に立つ大公は全身至るところに酷い火傷をおっていた。

「っ…おのれッ”浄化の姫”ッッ」

爛れた皮膚、怒りに震える大公がこちらを睨み付ける。
だが、それを遮るように、ナーリスとデュカ、クロノスが立ち塞がった。

「っどいつもこいつもッ…」

クロノス達の背中越しに見える大公は、間違いなく、怒りを煮えたぎらせている。
次にどうするべきか…。
あの術でも駄目ならば、もっと強力な術にしなくてはならない。
それも、先制しなくては…。
そう考えていると、闇から声が響いてきた。

『レイダ…悪いが時間切れだ』
「っ…?まさかっ…」
『そう言う事だ、レイダ…。
私に断りもなく、穴を繋げるとは…。
相変わらずのようだな、我が妻よ』
「ッフィルスっ…どうしてっ…帰ってくるなんて…っ」
『ある方が知らせてくれたのだ。
さぁ、戻りなさい。
今ならばまだ許されよう…』
「っくっ…覚えてらっしゃい…っ」

悔しげにこちらを睨んだまま、闇へとその身を沈めていくのを息を潜めて見送る。

『クロノス…お前も気が向いたら帰って来なさい…”浄化の姫””暁の魔女”よ、手間をとらせた…』

ゆっくりと遠退く声と共に、瘴穴が小さくなる。
完全に大公の気が感じられないことを理解すると、思わず目の前にある昔から変わらない懐かしいローブを掴んでいた。



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