蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜悔い晴れず〜‡

〔時は近い…か…〕
〔みみゅ?《なに?》〕
〔いや…イルは姫が好きか?〕
〔み〜《すき〜》〕
〔ほっほっ。
そうか、そうか。
皆が皆、好意をおまえの様に全面に出せれば良いんじゃがな…〕
〔みぃ?《ん?》〕

初めて姫に会った日を思い出す。
あのラダが弟子をつくったと聞いて慌てて見に行った。
絶対に弟子などつくらないと言っていたラダが、弟子をつくった。
あの頑固者の決意を鈍らせる弟子とはどんな者なのか。
一目見て分かった。
幼い頃のラダに似ている。
失う事に臆病な少女。
大切な者をなくして、その傷を癒す事ができない子ども。

『護りたいと思った時に護れるように』

それは、ラダが諸国放浪の旅に出た時、決意を込めて告げた言葉だ。
ラダは姫に自分を重ねて見ていたのだろう。
だからこそ、姫には色々な話をした。
悟すように、くじけないように…。
だが、どうしても変える事ができなかった。
教える事ができなかった。

《どうか自分を愛おてください》

姫の周りにいる者は皆、声なき声で訴えていた。
誰かの為にしか生きてくれない姫に…。
他人と自分を天秤にかけたら、迷わず自分を切り捨てる姫に…。
遺された誰もが後悔した。
わかっていたはずだ。
自分の死が民の為になるのだと姫が思い至ったならば、迷う事なくそれを選ぶと。
あの時、民が決起するのに障害となる”王の騎士”と呼ばれる自分に姫が気付いた時、もう姫の中では結論は出ていたのだ。
自分が”王の騎士”が最期を迎える意味と、王がいなくなった後、全ての民が一丸となれる為の最も効果的な幕引き。
その意図に最後になるまで気付けなかった自分の間抜けぶりに、生まれて初めて憤った。
それは、姫についてきた者全てが同じであった。
たからこそ願った。
次の生は幸せに…。
そして姫を慕っていた者達と共に、精霊王の許しを得てこの世界へと渡った。
いつか出会える事を信じて。
姫には、穏やかな一生を過ごして欲しい。
それが皆の願いだ。
だが、今姫は決断しようとしている。
あちらの世界へもう一度行きたいと。
投げ出してしまった国がどうなったのか、この目で見たいのだと。

また辛い思いをする事になる。
責める者もいるだろう。
姫はその苦を受けて贖罪とするのだと言った。



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