蒼の王国〜金の姫の腕輪〜

魔女の役目

‡〜美しい魔女〜‡

ラダと二人、ゆるやかな丘を上りきり、屋敷の前へと立った。
丘の下から見た時は、小さな森があるように見えていたのだが、近くで改めて見れば、そこには立派なお屋敷が建っていた。
壁一面に蔦が取り巻き、全てを深い緑色に染め上げている。

「ラダ…」
「行くぞ。
あのクソババァなら、もう気づいてるだろ」
「…だとは思います…が…」

当時のナーリスを思い出せば、癖のある彼女特有の笑顔が思い浮んでくる。
ラダは当時から”ババァ”と言うが、見た目は三十代後半だ。
ただし、実際の年齢は知らない。
勝ち気で、大人の女性の艶やかさを全面に引き出したような、男受けのよい見事な身体つきをしていた。
赤と黒がとても似合うが、魔女と呼ばれるのを嫌う美しい人。

「リュスナ…いや…蒼葉。
お前が行け」
「っなっ…かっ構いませんが…っ」

ドキリと少し構えてしまうのは、あの頃の記憶が鮮明に思い出されたからだ。
予想できる。
姿は違っても、もうここに立った時点で、リュスナが来たと分かっているはずだ。
扉を開けたら間違いなく…。

「…っ行きます…っ」

覚悟を決め、扉の前に立つと、一つ大きく息をつく。

コンっコンっ

一瞬後、物凄い勢いで扉が開かれ、黒い影が突撃してきた。

「っリュ〜スナ〜っ◎
会いたかったよ〜ぉ☆」
「っうぎゃっ」

来るかなと思っていたのだが、予想よりも素早く突進…と言うか飛んできたナーリスに、不様に押し倒された。

「っ〜痛いですよ、ナーリス…っ」
「いやん☆
お・ね・え・さ・まっでしょっ◎」
「…はい…おねえさま…」
「ああん☆
カワイイっ◎」

全然…全く変わっていなかったようだ。
当時もそうだが、今もどう接すれば良いのかわからない。
はっきり言って未知の生物だ…。

「おい…クソババァ…」
「っ何よっ!
クソガキっ!
お前はあっちに行ってなさいッ★」
「っ相っ変わらず、若作りしやがってっ。
さっさと離れろっニヤニヤするな」
「ふんッ。
羨ましいのでしょ!
男の嫉妬は見苦しいわッ★
愛情表現もできないガキがっ口出すんじゃないわっ」
「んっだとッ!!
てめぇも知ったかぶってんじゃネェよッ。
言っとくが、こいつは一番最初に俺に会いに来たんだからな」
「自慢してんじゃないわよッ。
会いたくてあんたに会いに来たんじゃないでしょ。
ね〜☆リュスナ☆」
「うっ…い…いえ…その…」
「はっきり言っちゃいなさいよ◎
嫌な事は先に済ましました☆って◎」
「リュっリュスナっ…っ?」

何だこの拷問は…。
こちらをそれぞれの思惑で、真っ直ぐに見つめてくる二つの目に、冷や汗が流れた。




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