蒼の王国〜金の姫の腕輪〜

求める想い

‡〜愛する姉〜‡

『マリス、これはお前のだよ』
『っありがとうっリュスナねぇさまっ』

手渡されたのは二つの白い花の冠。
一つには薄い桃色の花が所々に編み込まれ、お前のだと渡された方には紫色の花が編み込まれていた。
嬉しくて、すぐにそれを頭にのせると、普段あまり表情を出さない姉が柔らかく微笑んでくれた。

『っ…ねぇさま…きょうは…?』

いつも姉の前では、ドキドキと心臓が高鳴ってちゃんと話ができない。
少しでも長く傍にいたいのに。
叶うなら、姉の外出に付いていきたいのに。
沢山の願いが、姉の前では上手く言葉にならない。
それがすごくもどかしかった。

『悪い。
このあと父上に会う事になっているんだ』
『っちちうえに…では…』
『そうだな…明日は無理だから…その次の日だな。
フェリス様やシリスにも会いたいから、離宮に通してもらうように手続きするよ。
部屋で待っていてくれ』

いつだって姉は気持ちを汲んでくれる。
頭が良くて、誰よりも強い大好きな姉。
他の兄や姉には興味はない。
唯一、リュスナだけが姉と慕う存在。
いつか絶対に父からこの国の王位を奪って、姉が少しでも多く笑っていられるような国をつくりたいと思っていた。

『ねぇさま…まっていてください…』
『ん?』
『いいえ、なんでもないです…。
たくさんべんきょうして、いいこでまってます』
『ああ、それとフェリス様とシリスを頼むよ』
『はいっ』

そうして去っていく背中を何度見送っただろう。
いつだって姉は一度も振り返る事なく長い回廊の先に消えていく。
それが少し寂しかった。
自分が想う程、姉は想ってくれてはいないかもしれない。
それでも、姉の時間を自分の為に割いてくれている事が嬉しかった。


もっと沢山笑って欲しい。

一緒に外の日溜まりの中で過ごしてみたい。

他愛のない幸せを共に知りたい。


そんな小さな幾つもの願いが…想いがあった。

「また…夢か…」

叶わなかった願い。
心に刺さった棘だ。
毎日のように見る夢は切なくて愛おしい。
降り積もっていくように、消える事なく体積を増していった願い。
それは最愛の姉が亡くなった後でも色褪せる事はなかった。
多分、未だに心が姉の死を受け入れられずにいるからだ。
綺麗にされて、クリスタルの棺に入った姉を見た時、何かが壊れる音がした。
今もずっと心に残っている。
いや、多分今もまだ壊れ続けているのだろう。
自分が生きているのか死んでいるのかも分からない日々。
長い時間がゆっくりと心を蝕んでいく。

「”ねぇさま”ようやく一つ想いを遂げましたよ…」

そう冷気に満ちた広い王の部屋で一人、呟くのだった。


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