蒼の王国〜金の姫の腕輪〜

荒廃した国

‡〜門の外と中〜‡

「困りましたね…」
「困ったわねぇ〜★」
「何で考えなかった?…」
《『……』》

うんうんと首を捻るこの事態…なぜこうなったかと言えば、答えは至極簡単な事だ。
思いつかなかったのは、一人は二百年前の記憶のままで今を知らなかったからであり、年長の二人は同じく二百年、世の中との接点を絶っていた為であり、残りの一匹は森から一歩も出たことのない、いわゆる世間知らずであったからだ。
見事なまでに”今”を知らない一行は、固く閉ざされた門の前で歩みを止めざるをえなかった。

「……」
「?どうしたリュスナ…?」
「いえ…この壁をどうやって登ろうかと…」
「…登る気なのか…?」
「ええ、中に入るにはそれしかないかと…魔術遮断の結界が張ってあるようですし…自力で登るか……この門…壊せるでしょうか…っ」
「っ…何する気だっ!
止めろよ?!」

早いとこ対策を考えなくては、リュスナが本当に門をぶち破りかねない。
どうしてくれようかと頭を捻っていれば、デュカがリュスナの袖を引き、呆気なくこの問題は解決された。

《『我が運んでやろう』》

その一言を発し、本来の姿へと変わったデュカは、三人を前に足を折った。

《『姫はともかく、お主ら二人を乗せるのは不服だが、致し方あるまい。
乗るがよい』》

引っ掛かる所はあるが、方法としてはこれが一番だろうと納得して少々高すぎる背に飛び乗った。

《『落ちるでないぞ』》

デュカは、ゆっくりと立ち上がり、壁との間に十分な距離をおくと、一気に駆けて壁を軽々と越えてみせた。

門の中は、別世界だった。
目に見える程の濃い瘴気が立ち込め、下の方に沈殿している。
至るところで倒れた者がおり、餓死した者と分かるような新しい遺体も点在している。
はっきり言って、酷い臭いだ。
息を吸いたくない。
眉をひそめて口に手をやったが、気持ちだけで、臭いも空気も最悪だ。
鼻のきくデュカは、悶絶するように地面に這い鼻を押さえた。
姿を変える事さえ出来ない程のようだ。
そんな中、リュスナだけがこの現状を冷めた眼で見ていた。
普段の歩調そのままに、一番近くに転がる子どもの遺体へと歩み寄り、地に膝をついた。

「…っ…ごめんね…」

そう聞こえた。
か細く消え入りそうな声で呟くと、すっくと立ち上がり瘴気で薄暗くなった空を見上げて声を上げた。



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