蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜浄化の歌〜‡

リュスナがこうする事は分かっていた。
けれど、止める事ができなかった。

それは命を削る歌。

空一面に大きく展開された魔法円は幾つもの色を見せて輝いた。
それに向けて放たれる涼やかな歌声は、急速に瘴気を払い、全てを浄化していく。
遺体はただ眠っているような健やかな姿へと変貌し、枯れた土から草木がまるで生きているように芽吹いていく。
奇跡と呼べる光景だった。
そして、これがリュスナの命を代償とした結果だ。
他の誰がこの術を使ったとしても、これ程の美しさは生まれないだろう。
穢れなき、煌めく魂を宿したリュスナだからこそ起こす事のできる奇跡。

完全に瘴気が払われ、心地のよい風が辺りを満たす頃、光の粒子となって魔法円が降り注ぐ、同じく消え行くように歌が終わると、とたんにリュスナの体が傾いだ。

「リュスナッッ」

しっかりとラダに支えられた体には力がなく、青白い顔で目を閉じていた。

「ッリュスナっ」
「揺らさないで。
大丈夫、死んだりしないわ。
どこか休める所を探しましょ」
「っ…ああ…」
《『あの辺りはどうだ。
木陰だ、我が衣代わりになろう』》

本来の姿のままのデュカが横になり、その柔らかい毛に埋もれるようにリュスナを横たえた。

「大丈夫なのか…?」
「…大丈夫じゃないわよ…かなり命を削ったわ…」
「ッッ…なっ…」
「怒っちゃだめよ…この子、歌いながら涙を流していたわ…自分が悪いわけでもないのに、弟の仕出かした事は勿論、手を離してしまった自分に腹を立てたみたい。
怒りと後悔、償い、哀しみ…それがない交ぜとなってたわ…」
「…責任感が強すぎなんだ…っ。
お前が背負う必要はないんだぞ…」

ラダはそう言ってそっと弱って色をなくした頬を撫でた。

「日も暮れてきたし、今日はここで野宿ね◎
デュカ、見張りしてちょうだいね」
《『…我は……いや…承知した…』》

リュスナを守る様に隣に座り、デュカの暖かい毛に埋もれる。
ラダも反対側に座った。

「大丈夫なのか?
リュスナはよっぽどじゃないと眠らないだろ…」
「そうね…体の自衛本能が働いたんだと思うわ。
すぐにとはいかなくても、夜が明ける頃には目を覚ます事ができるでしょう」
「なら良いが…」

そう、今だけは休めば良い。
例え傷ついたその魂を癒す事ができないとしても、ほんの少しの休息を…。


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