漆黒の黒般若
ギュッと目をつぶり嵐が過ぎ去るのを待つ



しかし目を閉じていると時間が長く感じられるようで何も話さない斎藤さんに不安になってくる



手を捕まれているので近くにいるのはわかる
しかし今、斎藤さんがどんな表情であたしを見ているのかが気になりだした



人間、一回感じた欲はなかなか引っ込まないようで…


楠葉はうっすらと目を開ける


すると目の前には斎藤さんの綺麗な顔があって
それはだんだんと近づいてくる



驚きで声も出せない楠葉は、まるで金縛りにでもあったかのように指一つ動かせない



そして斎藤さんとあたしの唇が触れるほんの数センチになり、あたしは目をギュッと瞑る


しかし目を瞑ると時間の流れが上手く読み取れないせいか
いつまでたっても唇に柔らかい感触は到達してこない


さすがに違和感を感じた楠葉が目を開くと目の前にまで迫っていた斎藤さんの顔はなく、拍子抜けして見渡すと斎藤さんはあたしから少し離れたところで笑いをこらえていた



一回脳がフリーズしたものの改めてフル回転し始めた脳には恥ずかしさと斎藤さんへの怒りがふつふつと浮かび上がる



「斎藤さん!!」


そして怒りの矛先を隅で笑っている彼に向けた


「からかったんですか?!」


楠葉の二度目の雷が落ちるとようやく斎藤さんは笑いながらもこちらに近づいてくる


「固まったあんたの顔ときたら…。ふはっ、まるで茹で蛸のように赤くなって」

まだ笑いが治まらないのか顔を歪めながら苦しそうに話している


斎藤さんのこんな様子は普段の姿からは想像もつかないものであるのだが怒りで赤くなっている楠葉はそんなことさえ気に止めることはなかった



「ひどいです!あたしみたいないたいけな少女にこんなことするなんて…!男として最低です!!あたし、本当に斎藤さんがき……」


怒りに身を任せていた楠葉だったが流石に言葉はそこで止まる



えっ!
ちょっと待ってよ…
あたし、今なんて言おうとしてたの?!


斎藤さんが本当にキスしてくると思って…


そこまで考えると楠葉の顔は怒りとは違う意味で赤く染まる


そこで止めてよかった

偉いぞ!あたしの理性!!


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