漆黒の黒般若
しかし喜んだのもつかの間


安心のため息をついていると前から声がかけられる


「本当に…なんだ?」


それは一気にまた崖っぷちに立たされた気分で


声のする方を見れば意地悪げに笑った斎藤さんがあたしの返答を待っていた


「えっと…」


「坂下、おまえ。俺が本当に接吻をすると思ったのだろう…?」



「そ、そんな事っ」


「ふっ。接吻くらいで赤くなって…」


「くらいって…!あたしにとっては大事な事なんですよ?!」


「ほぉ、では今度は本当にしてやろう。あんたの大事な事のために」



そう言うと斎藤さんはずいっと近づいて楠葉の手を掴むと楠葉の身体ごと壁に優しく押し付ける


「へっ?け、け、け、けっこうですっ!!」


しかし斎藤さんはどんどん近づいてくる


もう、だめだ…っ


今度こそ覚悟を決めて目を閉じた


斎藤さんとのキスなんて、初めてじゃないんだから!あたしにだって…


しかしそんな思いとは裏腹に心臓はけたたましく振動し、脈も速くなってくる



うぅ…
このままだと心臓の音が聞こえちゃう…


「や、やっぱり無理ですっ!」



そう言って目を開けるとまたもそこに斎藤さんの姿はなく



「本当に学習しないやつだな」


少し離れたところで笑っていた



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