純情、恋情、にぶんのいち!
彼氏、か。
わたしにも、そんな存在ができる日が、いつか本当にやってくるのだろうか。
そりゃあ憧れはある。メチャクチャある。なにせ、ミーハーだから。
だけど……
「――お? あそこに見えるのはチィの大好きな澄田じゃないかい?」
めずらしく回りかけていた思考は、その固有名詞によってどこかへ簡単に吹き飛ばされてしまった。
「えっ、どこ! どこどこ、ヨウ先生っ」
思わず身を乗りだすと、さーちゃんは、校庭に隣接しているプールの方向を指差した。
「ほら、あそこ」
「……っ、あ! いたっ、ほんとだ!」
けっこう距離があるからかなりぼやけているのに、ただひとりだけ、はっきりくっきり見えるのはなんという現象?
そう、あの、日陰にのんびり腰を下ろしている、銀色の細いフレームの眼鏡をかけている人。
「ああ……ヨウ先生はきょうも本当にカッコイイです……」
「具体的にどのあたりが?」
「ぜんぶです、ぜんぶ」
とーご先輩ももちろんため息が出てしまうくらい素敵だけど、わたしは入学してからずっと、ヨウ先生をいちばんに推している。