真紅の世界
私の涙がようやく止まり始めたころ、レティは私の顔を覗き込んで「じゃあサラはこの世界のことを何も知らないのね」と言った。
素直にそれに頷く。
生まれたての雛のように、私は何も知らない。
何を食べるのか、どうやって生活して行けばいいのか。
何もわからない。
今まで生きてきた元の世界とは、全く違うこの世界のことを、私は何も知らないのだ。
そんな私に、レティは簡単なことから教えてくれた。
この世界は、私たちのいるブライス国の他に3つの国があること。
その国で使われる言葉はすべて同じだけれど、地方では訛りがあること。
ブライス国を含めた3つの国は、平和条約を結んでいるけれど、残りの一つバルト国は3つの国を侵略して支配下に置こうとしていること。
「そして、この世界には稀に魔法が使える人がいるの」
そう言って小さな手の平を、上に向けて空にかざしたレティは、その掌の中から小さな光の渦を作りだす。
それが徐々に大きくなって、私の顔の大きさぐらいになった時、「おいで、ダリア」と言いながらレティが微笑んだ。
その瞬間、その光ははじけ飛んで、私とレティの間には大型犬よりも大きい犬みたいな、オオカミみたいな動物が突如として現れた。
でも、それが犬でもオオカミでもないと分かったのはその尻尾のせいだった。
尻尾が見事に3つあったのだ。
九尾とかケルベロスとか、本で読んだ空想上の生き物なら知っている。
でも、尻尾が三つの犬みたいな生き物は、初めて見たし聞いたことなんてない。
「この子ね、私の使い魔のダリア。 サラも仲良くしてくれると嬉しいな」
ダリアという名前らしい生き物の首元に、背伸びして抱きつきながら笑うレティはとても可愛らしい。
でも、私はダリアととてもじゃないけど仲良くなれそうな気がしなかった。
っていうか、そのダリアさん、私のことすっごく睨みつけてくるんですけど……。