真紅の世界
「ねぇ、聞いてる?」
ちょんちょん、と頬を小さな人差し指でつつかれて、慌てて返事をする。
「に、人間! こんなの着てるけどちゃんと人間!」
フードを取って、染めていない真っ黒な髪をあらわにする。
すると、大きな目を更に大きくした金髪少女が、小さな手を口元に当てて息を呑んだ。
「その服、どこで手に入れたの? 帽子をかぶるだけでクマさんになれたり元に戻れたりすごいわっ!」
私の髪の色が珍しいから驚いたのかと思ったけど、意外にもその口から出てきたのは本当に子供らしい言葉だった。逆にこっちが拍子抜けしてしまう。
「……あの、ちょっと聞きたいんだけど、ここってどこ?」
まったく私に警戒心を抱いていない金髪少女に、恐る恐る聞いてみる。
これが見ず知らずの大人だったら、嘘をつかれてるのかも、とか思うけれど相手は子供だ。
素直に返事をしてくれるに違いないし、嘘をつく必要がない。
もしこの子に『ここは天国よ』と言われても、信じる自信がある。
だからこそ聞いてみたのに、そのふっくらした小さな唇から放たれた言葉は、嘘と言ってほしいと思ったほど今まで聞いたこともない名前だった。