真紅の世界
「ここは私のお家のお庭よ。 ブライス王家の敷地の隅の方で、たまにあなたのように、間違って迷い込んでしまう人がよく来るの。 でもちゃんと、王宮の周りには頑丈な守りの壁があるし、見張りの方もいるから安全なのよ」
無邪気に笑う金髪少女の、微笑みを見つめながら考える。
やっぱりこの芝生は、人の敷地だったからこんなに綺麗に手入れがされてたんだ。
最初に私はそんな変なところに感心した。
次に、ここは天国じゃないってことは、私は死んでなかったんだ、よかった。
と安堵した。
そして、“もしかして”とその次に思い浮かんだ、今の私を説明する出来事を打ち消したくて仕方がない私は、恐る恐る質問を口にした。
「ブ、ブライス王家って、アメリカ? それともイギリス?」
「……あめりかとかいぎりすって何?」
私の希望は、金髪少女の無垢な疑問によって打ち砕かれた。
彼女は小学生でも知っている、“アメリカ”も“イギリス”も知らないらしい。
つまり、ここはアメリカもイギリスも存在しないということだ。
この子が、国の名前を知らないだけなのかもしれない。でもそれは、わずかな可能性すらないように思えた。
今ここでまた寝たら、いつもの部屋に戻っていたりしないだろうか。
そんなバカなことを考えてしまう。そんなことをしたって、何の意味もないってちゃんと分かってる。
それでも、悪あがきをしたくなるのが人間の性ってモノで。
「ここって、なんて国?」
「え? ブライス国よ、私のお父様の国だからブライス国なのは当たり前でしょう? 変なこと聞くのね」
小首を傾げた金髪少女とは対照的に、私はガクリと項垂れた。