惑溺
私の前に置かれた、小さなグラスの中のクリームで飾られたプリン。
それを見た途端甦ったのは、あの人の唇の感触。
私の口の中のバニラの甘さを拭い去る強引なキス。
ベッドの上で必死にしがみついた、逞しい背中。
耳元で吐き出される乱れた吐息。
鮮明に蘇るあの夜の事を、私はきつく目をつぶって振り払う。
「食べないのか?」
いつまでもプリンに手をつけない私に、聡史はコーヒーを飲みながら不思議そうに首を傾げた。
「由佳、ブライダルフェアなんて来たくなかった?」
聡史の言葉にハッとして顔を上げる。
別に来たくなかったわけじゃなくて……。
そう、言い訳をしようとした私に
「由佳、苦手そうだもんなぁ。ああいう営業トーク」
そう言って屈託なく笑いかける聡史。
その顔に罪悪感で胸が痛んだ。
私は曖昧に微笑んで、私と聡史との微妙な間を埋めるようにスプーンでプリンをすくった。
ホテルのプリンの上品であっさりとした甘さは、今の私にはなんだか物足りなかった。