惑溺
「ドレスの試着できなくて残念だったな」
ブライダルフェアの会場だったホテルを出ると、外はもう薄暗くなっていた。
たくさんのパンフレットが入った紙袋を手に、私のドレス姿が見れなくて残念だったと言う聡史に、私は目をそらしたまま首を横に振る。
「いいの。ドレス着たくなかったから」
もし、今ドレスの試着をしたって、私には似合わない。
綺麗なウエディングドレスを着て、曖昧な笑顔しか浮かべられない自分を想像するだけで、なんだか情けない気分になった。
あのドレスは、幸せでいっぱいの女性にしか似合わないんだ。
「変なの。女の子って普通はウェディングドレスに憧れるんじゃないの?」
そう言って笑った聡史に、少しだけ胸が痛んだ。
『普通は……』
きっと聡史が私に求めているのは、普通の女の子。
結婚相手として無難な、少し大人しくておっとりした普通の女の子で、
別に私じゃなくても……