惑溺
 
 
「……ねぇ聡史。
どうして付き合って間もないのに、私と結婚したいと思ったの?」


晩秋の夜の訪れは早足だ。こんな鉛色の空模様の日は特に。

ひとつずつ、街灯に明かりが灯る。
頭上の灯りがチカチカと儚く瞬いてから、歩道を行く私達を照らした。


「ん? どうしてって……。
俺昔から結婚願望強かったし、もうすぐ30だから早めに子供欲しいし。
そんな理由じゃだめか?」


だめじゃない。
とても全うな理由。
でもそれは、私じゃなくてもいい理由……。


「もちろん、由佳と一緒にいたいのが一番だよ。
一緒にいて落ち着くし、距離感が心地いい。
由佳とならうまくやっていけると思うよ」


長い人生を共にする人。
激しい感情を昂らせる相手より、穏やかな愛情を育める相手を選ぶ。

聡史の言う事は間違ってなんか、いない。

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