惑溺


そんな事するなら、どうしてあの時引き止めてくれなかったの?
一度でもいいから、好きだって言ってくれていたら……

そう言おうとして、でも言葉には出来なかった。

それは私も同じだ。
一度でもリョウに自分の気持ちを素直に伝えていたら。

もしかしたら、
今とは違う関係になれていたかもしれないのに。



私の沈黙をどういう意味で受け取ったのか、リョウは黙ったまま差し出した手を下ろした。

シュシュはその綺麗な長い指を離れ、積もったばかりの柔らかい雪の上に

音もなく、落ちた。

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