惑溺
 
「真冬の雪の中、凍死するかと思いながら待ってたのに、結局何も言えないまま玉砕。
悲惨すぎるだろ」

自嘲気味に笑ってビールを飲み干すと、木暮はほぅ、とため息をついた。

「やばい。それは悲惨すぎる。俺の方がまだマシだ」

俺につられてビールを一気に飲み干そうとする木暮からグラスを取り上げた。

「もうやめとけよ」

飲みすぎだ。
そう言うと木暮は素直に頷いた。
少し酔いが覚めて、気持ちも落ち着いたのか心なしか表情も明るかった。

「でも、なんか意外。
リョウがそんなに一人の女に執着すんのって想像できない」

本当だな。
どうしてあんな雪の中待っていたのか、自分でも正直理解できない。
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