惑溺
 
なくして困ってたなんて、嘘ばっかり。
わざと私のバッグに鍵を隠したんでしょう?

私が、わざとお店にその赤い手帳を忘れたように。

『嘘じゃないよ。
鍵、返してくれたら助かるんだけど』

私の出方を試すようなリョウの言い方に

「じゃあ、明日お店に届けてもいい?」

私は緊張しながら言葉を返した。

『明日日曜だから店休み』

素っ気なく言われて言葉に詰まる。

「じゃあ……」


言いかけて、躊躇う。

いいのかな……。
手のひらの中に銀色の鍵を握りしめ、自分を奮い立たせるように大きく息を吐いてから言った。
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