惑溺

「じゃあ、明日……。
家に届けに行っても、いい?」


リョウのあの部屋に、他の女の子がいるかもしれない。
リョウに今彼女がいない確信なんてない。

だけど、リョウが私のバッグに隠したこのマンションの鍵。
この銀色の鍵に込められた意味を信じたかった。

私がカウンターの隅に、わざと赤い手帳を忘れたように
リョウも、私と同じ気持ちでいるんじゃないかって、信じたかった。


『別にいいけど。何時頃?』

リョウは私が部屋に行くことなんてどうでもいい事のように興味なさ気に聞いてくる。
その動じない彼の声に、私ひとりだけこんなに動揺してるのが少し悲しくて情けなくなった。

もしかしたら、この鍵は本当に偶然私のバッグに紛れ込んだだけで、意味なんてないのかな。
自意識過剰な私が、勝手な理由をこじつけて期待しているだけなのかな。
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