惑溺
「いらっしゃい」
「ごめんね、突然来て」
先に入った酔っ払いを目線で指して、小さく手を合わせる。
落ち着いた店に騒がしい二人。
リョウはその二人に視線を走らせると、静かに頷きながらカウンターを出てきた。
私はコートのボタンをはずしながら店内を見渡すと、カウンターの奥に年配の上品な男の人が二人談笑しながら飲んでいるだけで、他にお客さんの姿はなかった。
それもそうか。
もう夜もかなり更けてる。
私と矢野くんの上着を預かりハンガーにかけたリョウは、コートを着たまま奥のボックス席に座る沙織の近くに行き
「上着、預かりますよ」
低く艶のある声で優しく言った。