惑溺
沙織が、突然降ってきた声の主を探して顔を上げる。
すぐそばで見下ろすリョウと目が合ったとたん、みるみる彼女の表情が変わった。
さっきまでは酔っぱらったおじさんみたいに傍若無人だったのに。
急に女の子の顔になり、アルコールで血色のいい頬をさらに赤く染める。
あ。
なんか、イヤな予感。
慌てて背筋を伸ばして立ち上がり、コートを脱ぎ始める沙織に、リョウは手を伸ばし後ろからコートを脱ぐ手助けをする。
沙織の長い髪が絡まないように、優しくコートを抜き取る彼の動作を、私は遠くからドキドキしながら眺めていた。
受け取ったコートをハンガーに掛け、クローゼットにしまうリョウの綺麗な後姿。
それをまだ赤い頬で見つめながら、沙織は私に興奮気味に話しかけてきた。